人に支えられて、蔵を建てる。いちき串木野市で始まったミード醸造家の挑戦【戸田京介さん 後編】

プロフィール

家族構成:
夫婦
年代:
20代
職業:
ミード醸造家・起業家

学生時代の小さな実験から始まった、戸田さんの酒造りとミード(蜂蜜酒)の道。
酒蔵での修行を経て鹿児島へ移住し、再現性よりも自然の揺らぎを大切にする酒造りを志して、いちき串木野市を新たな拠点に選びました。
後編では、移住後の醸造所の立ち上げや蔵づくりの裏側、そして地域の人たちとの関わりについて伺います。

いちき串木野市での暮らしと、蔵づくり

いちき串木野市に移住後、最初は白石酒造で働き、今まで経験のなかった農業から醸造まで担う蔵のあり方や、ミードづくりのための準備を進めました。

そして2025年5月、製造免許を取得し「株式会社nobana」を設立

拠点となる醸造所の蔵づくりに取り掛かります。
その過程で戸田さんは、地域のさまざまな人の力に支えられることになります。

戸田さんが蔵を建てた場所は、みかん畑の下の段にある、かつて公民館が建っていたところ。
柱や瓦が積み上げられ、草木が伸び放題になっている土地でした。

絡まるツタを切りながら仕分けを行い、瓦や腐った柱などは自ら積み込んで処分場へ運び出しました。

さらに、通路用として敷かれていたセメントをはがして処分場へ運ぶという大仕事も。セメントの撤去は知り合いづてでユンボ作業を依頼し、一緒に作業を行ったそうです。
さらに、3本の木の伐採は、集落の方の紹介で森林組合に依頼しました。

ようやく土地の整備が整い、いよいよ着工です。
ところが、地面の下から想定以上に硬い岩盤が現れるという想定外の事態に。
段々畑の一番下にある土地だったため、上から流れてくる雨水を排水する側溝を設ける必要があり、蔵の基礎を打つためにもある程度掘り進めなければなりませんでした。

それでも、地元の業者の方々に人をつないでもらい、状況に応じて柔軟に対応してもらいながら、工事を進めていきました
戸田さんは「本当にいろいろな方に助けてもらって、頭が上がらないですね」と振り返ります。

内装も、施工中に大工さんの提案で、変更になったことも。
「ここ、水がかかるから外壁材使ったほうがいいんじゃない?」
「そっちのほうが長持ちするよ」
職人さん達の経験が、蔵を“よりよい形”へと導いてくれました。

そして内装も外観も木の温もりが感じられる、凛とした佇まいの蔵が完成しました。
蔵を説明してくださる戸田さんの表情からも、確かな満足感が伝わってきました。

断熱と遮光のためガラス窓は使わず、木窓で換気できるつくりに。

「お互いさま」でつながる関係

ある日の飲み会で、蔵を建ててくれた工務店の方に偶然会いました。
嬉しくて「本当にありがたいです」とお礼を伝えると、こんな言葉が返ってきたそうです。

元気にやってくれたらそれでいい。それが街にとっても良いことになればいいから
それを受けて戸田さんは、
工務店さんにとっても誇りに思ってもらえるような蔵にできるよう頑張ります
と伝えたといいます。

また最近では、近所の方がふらっと立ち寄り、草刈りをしてくれたことも。
「“大変そうだな、やっとくよ”って。あまりにも自然で、びっくりしました」

気がつけば、自然と誰かが手を貸してくれる。

「いただいたものを自分なりの形で、相手や、また別の誰かへ渡していく。
そんな関係が、この街には生まれている気がしています」

そうしたやり取りの積み重ねが、少しずつ人と人との絆を深めていくのかもしれません。

これから移住を考えている方へ

最後に、これから移住を考える人へのメッセージを聞きました。

「移住先では、必ず誰かと関わりながら生きていくことになります。その関わりの中で、意図しなかった『何か』が生まれる過程を良い意味で楽しめる人なら、きっとこの町での暮らしは面白くなるはずです。 僕自身、蔵づくりに関しては知識がありませんでしたが、専門家である職人さんたちの知恵や力が介入してくれたおかげで、自分一人では到底つくれなかった素晴らしい蔵が完成しました。
こだわりを持つことも大切ですが、周囲の力を借りて、変化していくプロセスそのものを楽しめる。そんな方には、いちき串木野は最高の場所だと思います」

微生物に任せる発酵と、人に委ねる暮らし。
どちらも、不確かさの中にこそ魅力がある。

いちき串木野市で生まれる一杯のミードには、
そんな戸田さんの哲学と、この土地の空気が、静かに溶け込んでいます。

株式会社nobanaは、2025年8月に「nobana 1st lot」をリリース。
人気を集め、売り切れが続出するなど、大きな反響を呼んでいます。
今後のさらなる展開にも期待が高まります。

  • この記事を書いた人:
    いわもと(事務局)

    いちき串木野市の自然や人の温かさ、美味しい食べ物などの魅力を
    PRライターとして多くの方に伝えられるよう発信しています。