【完全版】大好きな焼酎に関わる仕事がしたくて/いちき串木野で過ごす、28歳ブレンダーの毎日

プロフィール

田川大貴さん

濱田酒造のブレンド室でブレンダーとして活躍する田川さん。
福岡出身で、広島大学の大学院を卒業後、新卒で濱田酒造へ就職。その際にいちき串木野市へ移住。
職人的な仕事に就きたい×焼酎が好き=濱田酒造への就職を選択した28歳が、いちき串木野で3年暮らしてみて何を感じているのか、リアルな想いを伺いました。

移住スタイル:
Iターン
家族構成:
単身
年代:
20代
職業:
会社員
移住元:
福岡→広島→いちき串木野市

【聴き手=森満誠也(LR株式会社)】

新卒でいちき串木野に就職&移住して3年目です

濵田酒造ブレンド室での仕事内容について

まずは今の仕事や働き方について教えてください。
田川さんは濵田酒造でどんな仕事をされているんですか?

ブレンド室という部署でブレンダーとして働いています。
仕事内容としては、①原酒の管理、②ブランドの品質維持、③ブレンドによる新しい酒質の創造になります。

品質を保つところから生み出すところまで幅広い仕事をされているんですね!

そうですね。
ブレンド室はブレンダー2人、アシスタント1人の計3人の部署なんですけど、他の色々な部署の方々と連携しながら日々働いていて。

ブレンド室って3人の部署なんですか..!?
仕事内容を聴く限り、業務が多岐に渡ってて大変そうだなと感じたのですが。。

もちろん僕たちだけでやるわけではなく、他の部署の方々と連携しながら業務する形になります。

田川大貴さん(28歳)。福岡で育ち広島大学&大学院を経て新卒で濵田酒造へ

製造計画からボトリングまで

ちなみに他の部署との連携と言いますと、具体的にどんな連携の仕方を?

濵田酒造として「1年間にこれぐらいお酒を売る」という営業さんの販売計画を基に、今ある原酒をどう使っていくか、これくらいお酒が必要という製造計画を立てるんです。
その計画に基づいて「これぐらいの量を作ってくださいね」っていうお願いをしたり、実際に出来上がったものを「〇〇という酒質にしたいから▲▲という処理をしてくださいね」って指示を出したり。

なるほど!
全体の計画に基づいて指揮するみたいなイメージで合ってます?

指揮、、どうですかね。苦笑
ただ、酒造に関わることは全部やってます!
製造からボトリングまで全体を見ているようなイメージですね。

現場を飛び回る理由

具体的な業務内容としては、パソコン作業の時間が長いですか?
作業着で現場にいる方が多いです?

指示書を作成しないといけないのでパソコンでの作業も多いんですが、作業着で現場にいることも多いです。
やっぱり現場を知らないと、そもそも指示なんて出せないじゃないですか。

いやめっちゃそうですよね!間違いない!

一緒に連携して仕事をする方は僕より年上の方ばかりなので、特にコミュニケーションについては意識しています。
意識的に現場を飛び回って、直接コミュニケーションを取ることを心がけていて。

コミュニケーションの取り方によって信頼関係の深さが変わってきますもんね。

そうなんです!
僕という人間を信頼してもらうことが部署間の良い連携に繋がりますし、それが結果的に良いお酒の創造につながると思っています。
2年目なので、まだ試行錯誤の部分も多いですが。苦笑

現場作業中の田川さん

利き酒師というプロフェッショナル集団

ブレンド室の業務内容に興味が湧きすぎてしまったので、もう少し掘り下げて聴かせてください(移住関係なくてごめんなさい!)。
品質の管理っていうと、いわゆるサンプリングみたいなこともされるわけですか?

しますね!
味が変わってないか、逆にどんな味に変化しているかを確認するために、定期的に行っていて。
それは僕らブレンド室だけでやるわけではなく、利き酒師の方々と一緒に取り組んでいます。

利き酒師!?

サンプリングする利き酒師の方々

濵田酒造独自の社内資格制度なんですけど、利き酒師という資格がありまして。
お酒のプロフェッショナルであることを認定する資格試験を社内で行っているんですよ。
味覚・嗅覚のテストもしっかりあって。

へぇー!おもしろい!

例えば「この酒質は何の原料から作られていますか?」だったり、「この酒質と同じものを3つのサンプルから選びなさい」だったり。
特筆すべきポイントは、100点満点じゃないと合格できない試験だということです。

100点満点じゃないと合格できない..!?

そうです。
毎年試験があって、合格した人だけが利き酒師として1年間酒質の合否判定を行うことができて。
大体30人ぐらいの利き酒師が会社内に居るイメージですね。
利き酒師の方々の管理や育成もブレンド室の大切な仕事なんです。

めちゃくちゃ面白い話!
ただ、100点満点しか合格にしない試験って、かなり厳しいような気もしちゃいますが..

なぜそのような厳しい制約を設けてるのかというと、工場では1日に数万本を生産するわけですが、お客様にとって購入するお酒はたくさんあるうちの1本じゃなく、唯一の1本じゃないですか?
そのために1本でも不良を出す事は許されない。
我々利き酒師も、100点満点じゃないと合格にしちゃいけないんです。

専門職としてのプライドを感じます。すばらしいです。
利き酒師の試験は任意で受けるものなんですか?

任意ですね!
合格者が30名程度なので、もっと多くの社員が受験していて。
タンクから移すタイミングやブレンド後、ボトリング始め&中間&終わり、それぞれのタイミングで酒質のチェックを行うんですけど、その際の酒質確認が利き酒師の仕事です。

実際のサンプリング

ほぉーなるほど!
そんな利き酒師の方々をとりまとめる仕事をブレンド室がしてるということは、田川さんも利き酒師の資格を持ってるという認識で合ってます?

おっしゃる通りで、僕は試験に落ちることが出来ない立場なんです。
自分は今ブレンド室2年目なんですけど、ブレンド室1年目の時に受けた利き酒師試験では手震えましたもん。笑

笑笑

入社1年目の時は「落ちてもいいや」ぐらいの気持ちで受けれたので、楽しかったんですけど。。
ブレンド室所属になってからの試験は、すごいプレッシャーでした。

異例の入社2年目でブレンド室配属へ

なるほど。
ん!?そもそも1年目はブレンド室じゃなかったところから、2年目でブレンド室に異動したってことですよね!?

そうですそうです。

ブレンド室配属を希望していたのが叶ったということですか?

いやっ!そもそもブレンド室って、希望して入れるような部署じゃなかったんですよね。。笑

なんか薄々そんな感じがしてました。笑
ブレンダー室の室長さんの記事をいくつか拝見しましたが、だれでも配属されるような室じゃないことは素人の僕にも伝わりますもん。
ではなぜ新卒2年目の田川さんがブレンダー室に配属されることに?

https://www.asahi.com/and/article/20220428/417210602
〈ブレンド室長の大園さんはこれ以外にもたくさんの記事が挙がってきます↑〉

それこそ1年目の時に受けた利き酒師試験で、たまたま..本当にたまたま合格することが出来たんですよ。
それが大きかったんじゃないかなと思っています。

かなり難しそうな試験ですもんね!
1年目で合格するって、なかなか居なさそう。
ブレンド室への異動を聴いた時はどんな心境でした?

「えっ..マジかよ!」って思いました。

笑笑

率直に言うと「僕に出来るのかな」という心配の気持ちが大きかったです。

不安になるくらい重要な役割だと理解されているから、そう感じたっていうことですよね。
ブレンダーとして働く上で、特に大切にしていることってどんなことですか?

味覚・嗅覚には特に気をつかっています。
酒質に変化がないか、逆にどんな香味に変化しているかが仕事に直結しているので、仕事の前日から刺激物(カレーやニンニク)は取らないようにしたり。

サンプリングする田川さん

なるほどなぁ。
私自身全く知らなかったことばかりだったので、必要以上に深ぼってしまいました(ごめんなさい!)。
(ここからしっかり移住の話聞いて行かねば。取材予定時間の半分以上経ってしまった..)

移住に至った経緯

広島大学時代の話

話が大きく変わるんですけど(ここからが移住の本筋です笑)、いちき串木野に移住してくる前の生活について少し教えてください。
出身はどちらでしたっけ?

福岡です。
高校までを福岡の割と都心部で過ごして、広島大学&大学院を卒業し、新卒で濵田酒造へ。
25歳で入社して、今3年目の28歳です。

福岡&広島と大きい都市で暮らした後に、鹿児島へ移住されたわけですね。

福岡の暮らしていた場所は割と街中のエリアだったんですけど、広島大学周辺は結構田舎だったので、いちき串木野に来てもそんなに抵抗なく暮らせています。

なるほど!笑
ちなみに大学ではどんなことを専攻されていました?

生命工学を専攻していました。
いわゆるバイオテクノロジーというやつです。
植物に遺伝子操作をして本来その植物がもってない機能を付与してあげる、みたいな研究をしていました。

大学時代の田川さん。専攻していた分野の就職も考えたが、職人×お酒の道を選び濵田酒造へ

濵田酒造にたどり着いた理由

そこから濵田酒造にたどり着く経緯を教えていただいても良いですか?

大前提として「お酒が好き」という気持ちが大きかったですね。笑

うんうん。笑

付け加えると、広島大学時代に、お酒を研究する国の機関である酒類総合研究所から講師が派遣されて、お酒に関する講義を受けていたんです。
広島大学が近くにある東広島市西条っていうエリア自体が酒処だという環境も相まって、少しずつ自分の興味がお酒に向き始めたんですよね。

広島大学のある町って酒処なんですね!

そうなんですよ。
自分は大学院まで行って学んでたんですけど、就職を考える上で少しずつ職人的な仕事に就きたいなって思うようになって。

職人的な仕事!?

そうです。
そう思い始めた時に興味のあった分野がちょうど酒造関係だったので、これは良いんじゃないかと思って。
もちろん大学で学んでたようなジャンルの企業も受けてはいたんですけど、最終的には酒造メーカーで働いてみたいと思い、濵田酒造にたどり着きました。

職人的な仕事×興味のある分野=酒造メーカーだったわけですね!
ブレンド室での仕事も含め、お話を聴いているとまさに今職人的な仕事ができているんだろうなと思いました。
ちなみに焼酎以外の酒造会社も受けましたか?

いやっ、焼酎だけですね。
ビールや日本酒も好きなんですけど、一番長く飲み続けられるのが焼酎(蒸留酒)で。
大学の頃から芋焼酎が自分の身体に合っている自覚があったんです。
福岡出身っていう九州の血も少し影響してるのかも。。笑

なるほど。笑
焼酎メーカーの全国分布でいうと、鹿児島がやっぱり多いものなんですか?

圧倒的に多いです。

圧倒的に!?

鹿児島には100を超える酒造メーカーがあり、清酒を合わせたとしても数でいうと全国で一番多い都道府県なんですよ!

なるほどなぁ。
そしたら焼酎系の酒造メーカーを受けようとすると、自ずと鹿児島が候補として入ってくるわけですね。

そうですね。
今まで住んでた場所を見ても、福岡はそれなりに焼酎の会社ありますけど、広島はほとんど清酒の会社になりますし。
なので、私が鹿児島に来るきっかけは芋焼酎の酒造会社へ就職したかったからっていう理由になります!

移住後の暮らし

濵田酒造での働き方について

ここからはいちき串木野での実際の暮らしについてお話を伺えればと思います!
まずは田川さんが普段どのような働き方をされていらっしゃるか、教えていただいても大丈夫ですか?

濵田酒造での働き方としては、部署によって時間帯や勤務日は多少異なるんですけど、私の所属するブレンド室は基本的に月-金曜の8-17時~8時半-17時半で勤務することが多いです。

8時スタートはなかなか朝早いですね。
自宅と職場の距離ってどれぐらい離れてます?

車通勤なんですけど、実際は歩いて来れるぐらい近い所に住んでいます。笑
街自体がコンパクトなので、通勤にそれほど時間がかからないのは、暮らす上で良い部分かもしれません。

濵田酒造 傳藏院蔵

いちき串木野に来ての第一印象

そもそもなんですけど、就活時点でいちき串木野という場所自体ってご存じでした?

いやっ、正直知らなかったです。笑
祖父母が鹿児島市に住んでいるので、ちょこちょこ鹿児島市には来ていたんですけどね。

ですよね!
そんな中いちき串木野で暮らすことになり、この町に来てみての第一印象ってどうでしたか?

広島大学時代に暮らしてた風景と田舎度合いとしては同じぐらいなので、まぁ..見慣れた風景だなという印象ですかね。笑
あとは海側のエリアなので、お魚が美味しそうだなっていう。
魚大好きなので!

なるほど!

ブレンド室の室長は、出勤前に魚釣りして、仕事して、帰宅前に魚釣りするみたいな生活してますよ。笑

田舎暮らしのインタビューとかで良く出て来そうな生活。笑

笑笑
あ!あとは東シナ海に沈む夕日がめっちゃきれいで!
感動して写真撮った記憶があります。

感動して撮影した東シナ海に沈む夕日がこちら

休日にはボルダリングを

休日はどんな過ごし方されてますか?

最近までは土曜日を使って焼酎マイスター講座を受講していたこともあり、毎週のように鹿児島大学へ学びに行ってました。

焼酎マイスターって、鹿児島大学の生涯学習部門が運営している、焼酎を通じて鹿児島の魅力を発信する人材を養成する講座ですよね。
焼酎マイスターのような講座を受講できるのも、鹿児島ならではの特色だなって改めて思いました。

ですね!
僕らのような酒造業関係者だけじゃなく、自治体職員の方や一般企業の方等、本当に幅広い方が受講していて。
自主的に学びたくて受講したので、とても有意義な時間でした。

焼酎マイスター講座を受ける前はどんな休日を過ごしてました?

ボルダリングジムに通ってました。
今住んでいる場所の近くにボルダリングのジムがあって。

いちき串木野市のボルダリングジムで身体を動かすことが休日の過ごし方と語る田川さん

ボルダリング!!

焼酎マイスターを受けていた期間はボルダリングをする体力が残っていなくて、最近出来ていなかったんですけど、そろそろまた復活したいなって思っています。

暮らしの中で感じたこと①-新幹線が利用しやすい-

移住して3年間暮らしてみて、今改めていちき串木野の暮らしで感じていることを教えてください。

意外と交通の便が良いっていう部分は、当初から変わらなく思ってる良いポイントですね。
それこそJRも近くに通ってますし、新幹線も隣町の薩摩川内市まで30分ぐらいかけて行けばすぐ乗れちゃいますし。

新幹線!たしかに!
田川さんは実家が福岡だから、新幹線使って帰省すると意外と近いみたいなことですよね!?

そうですそうです!
1人で帰省しようとすると、車で帰るより新幹線の方が何かと便利で。
なので、自分としては新幹線の利用がしやすいっていう部分のポイントが高いですね。

初めて出てきた意見ですごく興味深いです。
たしかに新幹線ユーザーからすると、新幹線の停車駅まで30分で行けるってかなり良いかも。

暮らしの中で感じたこと②-温泉のある暮らし最高-

あとは、とにかく温泉がすごく気持ち良いなっていう。

うんうん。

温泉が大好きなんですよ。自分。
市来ふれあい温泉センターに良く行くんですけど、あの施設が350円で利用できるの安すぎません!?

間違いないです!
温泉はもちろん、WiFiも漫画も読み放題で、おしゃれなコーヒースタンドが入ってたり、中庭には子どもが遊べる遊具が置いてあったり。
最高ですよね..!!

そうそう!
あと、本気で疲れを取りたいなっていう時は、日置市の湯之元にある「つれづれの湯」に行きます。
ここもめちゃくちゃ好きで..!!(いちき串木野じゃないですごめんなさい)
サウナと外気浴スペースが大好きすぎるんですよね。

あそこめちゃくちゃ良いですよね!

今は濵田酒造の近いエリアに住んでいますが、移住したばかりの頃は市来ふれあい温泉センターの近くに住んでいたので、しょっちゅう歩いて通ってました。
今はそれが出来なくなったので、めっちゃ恋しいです。。笑

休日や仕事終わりに歩いて温泉へ通える暮らし、あこがれです。

暮らしの中で感じたこと③-飲み屋のハシゴがしやすい-

あとは、田舎の割に飲み屋が多いなって感じています。

うんうん。

商店街の辺りに飲み屋がまとまっているから、ハシゴしやすいのも嬉しいですね。

移住を検討している方へのアドバイス

最後に移住を検討されている方へ、何かアドバイスをいただけますか?

それでいうと、いちき串木野市って生活していく上で必要最低限のものは全部そろっている場所だなって思っています。
例えばスーパー、飲食店、飲み屋、駅、高速道路のインターみたいな部分は全部近くにそろってる。

うんうん。

ただ、きらびやかなものは無いです。笑
なので、娯楽がたくさんほしいっていう人には向かないかもしれないですけど、そこがあまり要らないっていう人にとってはすごく暮らしやすいまちだと思います。
温泉に歩いて通える暮らし、最高ですよ。

仕事もプライベートも充実している様子がインタビュー中の田川さんの表情からも感じとれました。素敵なインタビューをありがとうございました!